岡山地方裁判所 昭和48年(ワ)24号 判決
一 成立に争いがない甲第一号証、甲第一七号証及び原告本人尋問の結果によれば、請求原因1、2記載の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
二1 被告が中華そばを製造し、これを被告の直営店において食用に供しうる状態にして販売し、右中華そばに関し(ニ)号標章を使用していること、被告とフランチヤイズ加盟契約を締結したチエーン店に対し、その販売する中華店舗での右提供には建物設備のサービスや味付も加わるが、結局は中心となる飲食物の売買に主目的があるから、飲食店舗における商標使用も、そばの販売についての商標使用とみるべきものである。
4 被告が商号使用として標識を用いるのであれば単純に「すわき」とすべきであり、「後楽」または「後楽」の加わつたものは商号使用ではない。
またチエーン店は各自独立した営業主体であるから各個人の氏名が商号となるべきで、「後楽」を商号とみることはできないから、本件商標使用は商号の使用には当たらない。
第三 証拠(略)
二 被告
そばに関し(ニ)号標章を使用することを推奨していることは当事者間に争いがない。
2 右争いのない事実に、成立に争いがない<証拠略>を総合すれば、以下の事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。
(一) 被告は従来家具販売業等を事業目的としていたが、昭和四〇年一二月ころ岡山市下之町のすわきビル新築落成を機に、右ビル地階において後楽そばまたはすわき後楽そばの名称により中華そば飲食店の営業を開始し、昭和四四年一月ころまでは訴外有限会社富士麺業より生麺を仕入れて右営業を行つてきたこと、被告は同年に至り直営店の外、独立採算により、被告中華そばの飲食販売を希望する者を募集し、被告において選考の上加入を認めた者との間にフランチヤイズ加盟契約を締結し、被告本部において営業、サービス方法等の指導を行い、統一した商号、サービス、マーク等及びこれらの入つた器具を使用し、統一した店舗イメージによりチエーン店を展開する、所謂フランチヤイズ・チエーンシステムを採用し、右事業の拡大を計つたこと。即ち被告は、チエーン店に対し、開店に当り被告中華そばの調理技術、サービス、営業方法について一定期間の研修を行ない、品質規格の統一をはかるとともに、チエーン店が中華そばを調理、販売するに必要な材料である、麺、スープ、たれ、焼肉、支那竹等(以下、単に中華そば材料という。)を、各前日までの注文食数に応じて(本部玉柏工場(昭和四六年以降は吉備工場)で製造の上、セツトで一括供給(麺玉の数量を基準にしてそれに相応する分量のたれ、スープ〔これらは一食当り何ccと定められている。〕焼肉、支那竹〔これらは一食当り何グラムと定められている。〕を供給)し、チエーン店は、全て店頭に「すわき後楽中華そば○○店」の名称を表示することを義務づけられ、かつ被告から購入した中華そば材料を調理・加工して販売することに専念し、麺だけを売るなど材料のまま他に転売したり、また出前をすることも品質維持の観点から原則的に禁止され、被告もフランチヤイズ契約の趣旨から、直営店及びチエーン店以外に中華そば材料の供給をしないこと。広告・宣伝についても被告は、チエーン店の統一イメージの維持のため、加盟店と共同し、被告本部において行なうのを原則としたこと。
(二) そこで被告本部は、直営店及びチエーン店の看板のれん、定価表に(イ)ないし(ニ)号標章を、吉備工場の看板にすわき後楽中華そば岡山吉備本部工場と表示して(ニ)号標章を、右工場から直営店及びチエーン店への運搬車両に(ニ)号標章(中華そば材料等はもろぶたや袋等に詰めて運搬車で運ばれたが、右もろぶたや袋には(イ)ないし(ニ)号標章等は附されていない。)をそれぞれ附させる他、被告とチエーン店との契約書、納品書にもすわき後楽中華そばフランチヤイズチエーン、または同本部と表示し、その外領収書にも同様に(ニ)号標章(請求書に(イ)ないし(ニ)号標章が附されていたことを認めるに足る証拠はない。)を、並びに直営店及びチエーン店名を連鎖状に表示した新聞広告に(ハ)及び(ニ)号標章をそれぞれ附していること。
三 前項認定事実を前提に、被告及びチエーン店の各標章使用行為が本件商標権の侵害に当るか否かを検討する。
1 ところで、商標は商品について使用される標章であつて(商標法二条一項)、自他商品の識別機能をその本質とし、右商標保護の目的は商品取引秩序の維持を図ることにあるから、右商品とは商取引の対象となるものであつて、かつそれ自体流通過程にのせられ、転々流通するものであることを要し、食堂における飲食物の提供のように、右店舗において消費されるものについては商標法上の商品には当らないと解するを相当とする。
これを本件についてみるに、被告の直営店及びチエーン店が営む中華そばの販売は、右店舗において、麺にスープ、たれ、焼肉、支那竹等を調理し、直ちに食しうる状態にして来客の飲食に供し、右材料を個別に来客に販売することも行なわれていないから、飲食物が直接提供者から需要者に供給、消費されるものであつて、右商品とは云い難い。従つて、直営店及びチエーン店ののれん看板、その他の広告(相場新聞広告は直営店、チエーン店の飲食店としての広告をなすものと認められる。)または定価表に(イ)ないし(ニ)号標章を附して展示し、もつて使用しても、これは商標の使用には当たらないから、まず原告主張の、被告の右各標章使用及びチエーン店に対する右推奨行為につき本件商標権に基づく差止請求が理由のないことは明らかである。(なお成立に争いない甲第二三号証、第二四号証の一、二によつて認められる、特許庁工業所有権相談所の回答は、原告代理人の、中華そばを商品として販売することを前提とする、右商品区分の照会に対するものであるから、何ら右認定の支障となるものではない。)
2 そこで被告のその余の各標章使用行為について検討をすすめるに、前掲乙第四号証、同第一二号証、成立に争いのない乙第五号証及び証人秋山佳宏、同諸岡文晴の各証言を総合すると、被告は前掲昭和四〇年の飲食店開業時より営業所の名称、屋号または商号としてすわき後楽そばの表示により営業許可を得ており、被告フランチヤイズチエーンについてもすわき後楽中華そばの名称を冠していること、同四八年二月にすわき後楽中華そばの商号登記をなしたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。そして前掲認定の直営店及びチエーン店は自己店舗において使用する中華そば材料のすべてにつき、被告本社工場より供給を受け、他からの購入は一切許されず、一方被告も右各店舗からの注文食数により、毎日必要な数量の右材料等を製造、供給するのみで、直営店及びチエーン店以外の一般店舗への右材料の販売は行わず、右工場はいわば、被告フランチヤイズチエーン組織内の自己消費用の中華そば材料等の製造、販売を行つているに過ぎない事実及び後述の事実を合わせて考えると、まず契約書、納品書等に附されている(ニ)号標章は、前記被告の飲食店開業時より屋号に準ずるものとして使用、順次形成された、すわき後楽中華そばの呼称を冠して、被告フランチヤイズチエーンの名称とし、同契約書(乙第一二号証)に同フランチヤイズチエーン加盟契約等と表示し、納品書(甲第一五号証目録(チ))には同フランチヤイズチエーン本部と表示するなど右は被告会社事業主体を表示しているものと解すべく、原告の本件登録商標の指定商品たる中華そば麺に関しその商品標として使用されたものと解することはできない。
さらに被告は、吉備工場の看板及び運搬車両に(ニ)号標章を附して展示しているところ、前掲甲第一二号証の一ないし五、同第一三号証の一ないし五、乙第一二号証及び証人諸岡文晴の証言によると、被告直営店、チエーン店の各店頭には前掲各標章と合わせ、被告フランチヤイズチエーンの統一店舗イメージを表現するため、本部指定の仕様規格により掲示がされている、中国服の子供が中華そばの入つたどんぶりを両手に抱えた所謂後楽坊やと称する人形のマスコツト及び「味で勝負する!」との宣伝文句が常に記載、表示されているところ、右看板及び車体にも(ニ)号標章の外、右マスコツト人形及び宣伝文句が同一形式により表示されていることが認められ、右はまさに被告直営店、チエーン店において飲食提供される中華そばの広告のため使用されているとみざるを得ず(吉備工場看板については同岡山吉備本部工場であることも表示するもの)、そうだとすると前記説示のとおり右標章の使用は商品についての使用とはいえないものである。
四 以上の次第で、被告の(イ)ないし(ニ)号標章の使用及び右推奨行為はいずれの観点からみても本件商標権に牴触するものではなく、従つて何ら侵害行為に当らないというべきである。
よつて、その余の点につき判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないことに帰するから棄却す。
〔編註その一〕本件における事実関係は左のとおりである。
一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、その販売する中華そばについて、被告中華そば製造工場の看板、被告中華そば直営販売店の看板及びのれん、被告の中華そば運搬用車輛の車体、その他被告の製造販売する中華そばに関する広告、並びに被告中華そば直営販売店の定価表、被告とフランチヤイズチエーン加盟契約を締結した中華そば販売店(以下、チエーン店という。)と被告との取引に関する納品書、請求書、受取証、契約書、その他取引書類に別紙第一目録(イ)ないし(ニ)の標章(以下、(イ)ないし(ニ)号標章という。)を附して展示又は頒布する行為、並びにチエーン店の看板、のれん及び定価表に(イ)ないし(ニ)号標章を附して展示又は頒布することを推奨する行為をしてはならない。
2 被告は、原告に対し金二〇〇〇万円、及び内金四五〇万円に対する昭和四七年六月一日以降、内金三〇〇万円に対する同四九年六月一日以降、内金八二五万円に対する同五四年六月一日以降、内金二四七万五〇〇〇円に対する同五五年一二月一日以降それぞれ支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 本件登録商標
原告は、左記の商標権(以下、「本件商標権」といい、その登録商標を「本件登録商標」という。)を有している。
登録番号 第七一七六二七号
登録商標 別紙第二目録
指定商品 第三二類うどんめん、そうめん、そばめん、中華そばめん
出願 昭和三九年一〇月一七日(昭三九―四八七七七)
公告 昭和四一年一月二〇日
登録 昭和四一年八月二四日
更新登録 昭和五一年一二月八日
2 本件登録商標の構成
本件登録商標は、漢字で縦に「後楽」と書き、「コウラク」と称呼する文字商標である。
3 被告の侵害行為
(一) 被告は、中華そばを製造し、これを被告直営の食堂(以下、直営店という。)において食用に供しうる状態にして販売し、又被告とフランチヤイズ加盟契約を締結したチエーン店に生そばを販売する会社であるが、本件登録商標の指定商品に該当する中華そばの販売に関し、被告中華そば製造工場の看板、被告直営店の看板及びのれん、被告中華そば運搬用車輛の車体、その他被告の製造、販売する中華そばに関する広告、並びに被告直営店の定価表、被告とチエーン店との間の取引に関する納品書、請求書、受取証、契約書その他の取引書類に(イ)ないし(ニ)号標章を附して展示又は頒布する行為をし、又チエーン店に対し看板のれん、定価表に右(イ)ないし(ニ)号標章を附して展示、頒布することを推奨している。
(二) 右(イ)ないし(ニ)号標章は、原告の保有する本件登録商標と類似する。
即ち、(イ)号標章は観念、称呼、外観とも本件登録商標と類似することは明らかであり、(ロ)号、(ハ)号標章は「そば」や「中華そば」の部分が普通名称であるからこれを切り離して観察すると、右に述べたと同様に本件登録商標と類似することは明らかである。また、(ニ)号標章については、「すわき」の部分が「後楽中華そば」の部分と行を異にし、あるいは小さな字体で表示し、「すわき」をそえものの如く表示し又は字体をかえているため、「後楽中華そば」の部分が強く押し出されるため「後楽」が右標章の要部といえるから、これまた本件登録商標と類似するといわざるをえない。